AL指数20、R30へ、実習生の挑戦 (2018.6.13)

    去る5月23日(水)、大宮ソニックシティホールにて、平成30年度第71回の全国高等学校長会総会並びに研究協議会があり、私も出席致しましたが、午後の研究協議会で茨城県立並木中等教育学校の中島博司校長による「アクティブ・ラーニング2018―AL指数・R80・TO学習の考案―」と題するアクティブ・ラーニング(以下ALと表記)に関する刺激的な実践発表がありました。中島校長によると、「AL」の目的は「アクティブ・ラーナー」つまり「能動的学習者」を育成することにあり、その定義は「アクティブ・ラーナーを育成することを目的にしている授業はみなAL型授業である」とのことで、例えば、50分の授業でAL(生徒の能動的学習の時間)5分ならAL指数は10、つまり「AL10」となり、AL10分なら「AL20」となります。また、AL型授業の最後にリフレクション(振り返り)或いはリストラクチャー(再構築)(略してR)して各自が80字以内で、まとめ、感想等を書くことを「R80(アールエイテイーと読む)」(必ず2文で書き、2文を接続詞で結ぶ)と呼んでおられました。「R80」を毎時間書かせることの目的は、思考力・判断力・表現力、更には論理力を育成することに繋がり、これが2020年度から始まる「大学入試共通テスト」の記述式問題への対応となることをご教示頂きました。このことを、本校で今抱えている教育実習生の校長ガイダンスで紹介したところ、早速それに類似した授業を実践してくれた実習生が現れましたので、以下に紹介させて頂きます。

 

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    本時は、単元「現代経済の特質」5時間分の第4時限目で、「日本の経済の前提となる資本主義経済において、価格決定手段や市場のあり方という基本的な知識を身に付けることで、何気なく見聞きする物価の変動に関して興味・関心を高めるとともに、市場のあり方に関して、どのようにすれば公正な市場が形成されるか、現実問題ともリンクさせ、個々人が社会との接点を意識する」ことを目標とした授業でした。具体的には、どのような条件により完全競争市場になり、不完全競争市場になると消費者にどのような悪影響を及ぼすことになるかを理解させるために授業の前半部分は板書と説明を交えた講義形式で展開し、後半部分は、机と椅子を4~5人単位で寄せてのグループという形態で、その時間が大体15分弱であったことからAL指数20、なおかつまとめの「思ったこと、感じたこと」を30字以上で書かせたことからR30と名付けてみました。

   授業の冒頭、導入のところで、生徒の身近にあるものとして、「信号機はいくらだと思うか」とか「人体の模型はいくらだと思うか」という問い掛けでは、数人の生徒に当ててみたところ、実際の価格よりかなり低い価格しか思いつかず、それぞれ約470万円、約122万円と聞いて「エー!!」とか「ほんと!!」とかいう驚きの喚声が上がっていたことから、意外に価格が高いことを知るとともに、その理由は供給者が限定的であることに気付かせつつ本時の内容に引きつけようとする仕掛けに工夫が見られました。そこから、講義型の授業展開となり、板書と解説の繰り返しとなりましたが、一旦興味・関心を抱いた生徒の耳目は、結城さん特有の語り口と巧まずして醸し出されるユーモア、絶妙な間の取り方にも乗せられて、解説の途中で指名された生徒の反応も迅速且つ的確で、テンポ良く進められました。完全競争市場の4つの条件(抽象的概念)の具体例として、カップラーメンの値段の話では、麻生財務大臣(副総理)の物真似まで入れて笑いを取る工夫(本人はかなり練習したとのこと)には微笑ましいものがありました。この場面では、楽天モバイルの携帯電話事業への新規参入や、食品偽装問題等、実際に起こっている社会事象などの具体例も効果的でした。

    そして、後半がいよいよAL型授業となり、前述の如く、4~5人のグループを編成し、不完全競争市場で寡占状態となり、価格の下方硬直性となっている日本のタクシー業界について考えさせるために、「日本のタクシーはなぜ高いのか???-均衡価格に戻すには?-」というワークシートを配付して、各グループで意見交換し、最終的には「タクシーの運賃を均衡価格に戻すにはどうすればよいのか」を、プリントに提示された資料(A)~(D)を参考に、これまで授業で扱った家計、企業、超過供給などの言葉を必ず用いて考察させるという作業学習でした。ここまではグループ内で議論したり、意見を出し合ったり、所謂協働作業でしたが、その結果を各班の代表が発表、つまりアウトプットしておりました。まずは個々人が主体的に考え、多様な意見を持つ仲間と協働して、班ごとに様々な意見を発表するというAL型授業の典型的な展開となりました。そして最後にもう一度個に戻り、前述の如く「思ったこと、感じたこと」を30字以上で「さくさくと書いて提出」して授業終了となりました。「個→集団→個」という展開もAL型授業には大切な要素であることも改めて確認させられました。

    グループ学習或いは協働して討論や作業をする場合の根底には、中島先生の言われるように生徒相互にリスペクトし合える人間関係が成立している必要がありますが、本校の場合、中高一貫で1学年120名前後の少人数であることから、互いに顔も名前も完全に一致し、それぞれの個性、特性も理解し合っているので、いつでもどのような状況でもスムースに話し合いに入っていける雰囲気が醸成されており、それが仮に実習生であろうとも、安心して取り組むことが出来ることを実感致しました(彼らの中には、先輩に対するリスペクトの方が強く作用していたかも知れませんが)。

グループワーク「タクシー料金について考える」

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若さあふれる研究授業

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